ロボットコラム

食肉加工現場における包丁研磨作業の技能継承【第1回】

包丁研磨は“技能”

Robot Column Vol.5 ― Knife Sharpening Is a Skill

「包丁研ぎ職人は、刃を見れば使い手がわかる」

包丁研磨には、そう言われる世界があります。
包丁の刃には、使い方の癖や力の入れ方、作業量などが現れるそうです。
つまり、包丁研磨とは単なるメンテナンスではなく、長年の経験によって培われる“技能”のひとつなのです。


食品製造業では、人手不足や高齢化が進む中、現場で培われてきた“技能”をどのように次世代へ継承していくかが大きな課題となっています。
本シリーズでは、食肉加工現場における「包丁研磨」をテーマに、技術継承・技能継承の課題や、現場で求められる自動化について解説します。
単なる省人化ではなく、“技能を未来へ残すための自動化”という視点から、現場の課題と可能性を考えていきます。

包丁研磨は“技能”

近年、製造業では「技術継承」「技能継承」が大きなテーマとして語られるようになりました。 しかし、実際の現場では「技術」と「技能」は似ているようで大きく異なります。

技術とは、方法や手順を体系化したものです。 マニュアル化しやすく、理論として整理しやすい特徴があります。

一方で、技能は“実際に使いこなす力”です。 たとえば包丁研磨では、研磨機に当てる微妙な力加減や、刃先を見極める感覚、音や手応えなど、経験によって身につく要素が多く存在します。 いわゆる「勘」や「コツ」と呼ばれる領域です。 そのため、技能は短期間で習得できるものではありません。 多くの場合、現場での長い経験、いわゆるOJTを通じて少しずつ身についていきます。

 

 

 

しかし現在、多くの製造現場で、この“技能継承”が大きな課題となっています。 富士電機が2022年に実施した「食品製造業の技能・技術継承に関する実態調査」では、約90%が「技術継承は重要」と回答している一方で、約80%が「技能継承に不安がある」と回答しています。 さらに、実際に取り組みを行っている企業は多いものの、「うまくいっている」と感じている企業は決して多くありません。 背景には、人材不足や教育時間の不足、熟練者の減少など、さまざまな要因があります。 特に技能は、言葉だけでは伝えきれません。
「見て覚える」
「やりながら覚える」
といった属人的な部分が残りやすく、継承が難しい領域でもあります。

 


技能・技術継承が進まない理由として
・被承継者の人材確保が困難〜人手不足のなか、人材補充が思うようにいかない問題があります。
・言語化やマニュアル化が困難 
・ノウハウがない〜技能保持者の持つ勘やコツは、文書化ができないうえ、長期間のOJTが必要と言われています。
・熟練技術者が教育に時間をさけない 
・熟練技術者の負担が大きい〜技能保持者が自分の仕事と教育の両立は難しいのが現状です。
・予算不足 
・支援環境の整備不足 
・そもそも仕事量が減少している〜会社側の問題になります。
このように、さまざまな理由で技能継承がうまくいっていないのが現状です。

 

食肉加工の現場でも、この問題は年々大きくなっています。

現場では毎日、多くの包丁が使用されます。
そして生産終了後には、翌日の作業に備えて研磨作業を行う必要があります。
企業によっては専門の研ぎ師や外部業者へ依頼しているケースもありますが、近年はその“研ぎ師”自体の不足も課題になっています。
また、現場作業者が自ら包丁を研ぐケースも少なくありません。

しかし、本当に“切れる包丁”を維持するには、高度な技能が必要です。
切れ味が落ちれば、作業スピードは低下し、余計な力が必要になります。
それは作業者の負担増加だけではなく、歩留まりや品質、生産効率にも大きく影響します。


つまり包丁研磨は、単なる裏方作業ではなく、生産性そのものを支える重要な工程なのです。
そして今、その技能継承が難しくなりつつあります。

 

こうした背景の中で、近年注目されているのが“技能継承を支える自動化”という考え方です。 自動化というと、「人を減らすためのもの」というイメージを持たれがちです。しかし本来は、それだけではありません。

人に依存していた技能を安定化させること。
属人的な作業を再現可能にすること。
そして、熟練者不足による現場負担を軽減すること。

それもまた、自動化技術の大きな役割になりつつあります。